「DIG」って単語を頭の中でつぶやいたことは数え切れないくらいある_。中でも強烈な思い出として残っている「DIG」にまつわる、ある1日のこと。馴染みのレコード屋へと向かう。一番奥の棚から順に掘り起こしていくのがどうやら決まったルーティンのようだ。ジャケットを抜き差しする手が止まる。ジャケットを表から裏面までじっくりと読む。軽く頷くような仕草をしたと同時に抜き出した1枚を横の棚の上に置く。同じ動作を数個分の棚で繰り返した後、平積みした数枚を試聴機に持っていき、次々に針を落としていく。”45”のタイポグラフィがプリントされたTシャツを着た、その後ろ姿からでも全神経を集中していることがはっきりとわかる。何枚かをそっと元にあった場所へと戻し、残ったブツをレジへと持っていく。対応する店員もこの人がどんな人かってことはもちろん理解しているはずだが、業務的なやり取り以外は一切行わない。そして街から次の街へ。この日は都合4つの街を巡った。これは2014年、D.Lがこの世を去る数ヶ月前に1日を共にしたときの話だ。D.Lにとって「DIG」することは日常そのものだった。その日常=DIGをただひたすらに積み上げていく。このとき初めて、ラッパーやトラックメイカーと同列に、ディガーは歴とした職業だと言うことを理解できた気がする。そろそろ話を本題へと進めることにする。PIMPとKILLA。渋谷・宇田川町が世界一のレコード街として君臨していたあの頃を作った目利きのバイヤーであり、指折りのディガーであるPIMP。そして、その時代を知る最後の漢であり、後に全てを一手に引き受けBALANCEを保ったKILLA。時代はいくら変化しようとも2020年の現在も当然掘り続けている、筋金入りの2つの山。先にひとつ言っておくと、縛りである和物は果てしない「DIG」の過程から生まれた、あくまでひとつの側面にしか過ぎない。PIMPの鋭い考察と貴重な歴史の一端を垣間見ることができるblogを見て確信した。「ただただ和物はDIGにおける自分の中の新しい振り幅であって、知らない国の音楽みたいな位置づけで、捨てる神たちのゴミをジャンルはシカトで掘ってるだけで、ベースはHIP HOPのSAMPLING SPORTSである事は何ら変わりない」そう言うことだ。このポストから数年、ただ今作での民謡のカットインには心底驚かされたわけだが。そこに至るまでに一体何枚のレコードを掘ってきたんだろうか。想像する。一方のKILLA。またの名をB.D.と呼ばれる漢は、いつも粋だ。針を上げ7inchをスリーブに戻す所作すらも洗練されている。何をやっても様になるとはまさにこのことを言うのだろう。インターネット上にアップされる新譜を聴き続ける。それは必要なことかもしれない。けれどそれだけがHIP HOPでは決してない。世の中にはShazamには引っかからない曲がまだ無限に存在する。HIP HOPそしてレコードを愛し、愛された漢たちによるかましあい。前口上はもういいだろう。とっととプレーヤーで再生しようか。ディガーは街のことを誰よりも知っている。PIMPとKILLAはミックスを通して貴方をどこかの街へと連れて行く。(DAWN二宮)
PROFILE : Mr.Itagaki a.k.a. Ita-cho / THE VINYL PIMP
digger producer,beatmaker dj,vinyl dealer,vintage blaxploitaition & vintage kung fu poster dealer ヒップホップのレコードを世界一売った店の元バイヤーとして 100タイトルを越えるエクスクルーシブ盤の制作や クラシックタイトルの再発などの仕事で評価を受ける 海外買い付けでもアメリカ,ヨーロッパなどで掘りまくるハードディガー 数多くのジャパニーズヒップホップ作品のプロデュースワークでも知られる DJプレイでは各地にて黒いバイブスに裏付けされた幅広いジャンルの選曲で玄人筋から評価得てる 06年のオリジナルアルバムに続き 09年にビクターエンターテインメントよりリリースされた P&P records音源を使ったオフィシャルMIXCDはUKチャートでNO.1を獲得した 作品のジャケットデザインを始めアパレルブランドのアートワークディレクションもこなす元調理師でK.O.D.Pのメンバー。
PROFILE : B.D. / KILLA TURNER
10代よりソロとしてそのキャリアをスタートさせる。その後、東京の歴史に残るHARD CORE HIP HOPグループであるTHE BROBUSを結成し、2枚のアルバムをリリース。解散後もソロとしてその歩みを続ける。現在は廃盤となっている「THE GENESIS」をリリース。そして、変態キャンペーンを合言葉に全国にその遺伝子を撒き散らし、仲間のアーティストを覚醒させた「THE SEXORCIST」。NIPPSと共に、SPERB & VIKNと共にTETRAD THE GANG OF FOURとして2枚のアルバムをリリース。(2017年の始まりからTETRAD THE GANG OF FOURはまた不穏に動き出している。)ソロとしはP-VINEより「ILLSON」をリリース、ユニバーサルミュージックより「BALANCE」をリリース。この二枚はB.D.の持つ様々な面を、B.D.の視る世界の形や色を、それぞれに相応しい形で聴かせてくれる。2016年にBACK CHANNELよりBOXセットでリリースしたMr.Itagaki a.k.a.Ita-choとの共作「BORDER」は美学が詰まっている。B.D.が作品から漂わせる香りは、また次の場面へ期待させてくれる。 KILLA TURNERとしてDJとして各地各所で、誰かの家や車で自然に流れるMIXされた音楽。特別な意味はあるけど、日常。日常だけれど、それは特別な景色。いつか憧れた景色を360度みまわしてるような空間。KILLA TURNERがかけるVINYLは、ボルヘスが書いた図書館の景色のように教えてくれる「REPRESENT」の意味を。空間を。B.D. / KILLA TURNERの音楽は、街と歴史を想わせてくれる。
■ 2020年9月7日発売
販売価格 | 1,650円(税150円) |
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型番 | CD_BD014 |